娘が生まれてから、何をやめたのだろう。
一人娘だったこともあり、極端なくらい大切にしてきたかもしれない。
でも実は、やめたことは意外に少ない。
もともとギャンブルもしない。
夜遊びもしない。
至って真面目な方だったと思う。
ただ、一つだけ。
タバコだけはよくやめられたと思う。
妻と付き合っていた頃から、
「やめる」
と言ってはやめられなかった。
人間なんて、余程のことがない限り依存性のあるものからは抜け出せない。
そう思っていた。
娘が生まれた直後は、まだ吸っていた。
換気扇の下や庭で吸っていたのを覚えている。
でも、娘を抱くようになってから吸えなくなった。
妻はよく言っていた。
「吸った後の匂いも子どもには良くない」
真実かどうかは分からない。
でも、娘のことを言われると私は弱かった笑
頑張ったというより、自然とやめていた。
不思議なものだ。
ただ、今思えば本当にやめたものはタバコだけではなかった。
子どもができると、今まで通りにはいかない。
お金もない。
時間もない。
自由もない。
私は小遣い制になった。
会社の靴も3000円くらいのものを履いていた。
シャツもすぐ傷む安いものだった。
今思えば、よくあれでお客様の前に立っていたなと思うこともある。
会社の先輩からも、
「本当にお金なさそうだね」
と言われた。
お客様からも、
「もう少しまともな靴を履かないとダメだよ」
なんて言われたこともある。
今思えば笑い話だ。
妻もたくさん我慢したと思う。
でも、それ以上に娘の可愛さは計り知れなかった。
自分の服。
靴。
会社の飲み会。
友人との交際費。
食べ物。
できる限り抑えた。
ただ、一つも後悔していない。
できることは全部やってきた。
私は長男として育った。
実家の家族も当然大切だった。
でも、妻からよく言われた。
「あなたの家族は誰なの?」
私は答えていた。
「どちらも家族だし、みんな好きじゃいけないのか」
と。
でも、人生は時に選択を迫ってくる。
私は最終的に妻と娘を選んだ。
倒産した時もそうだった。
妻の地元へ行くことを決めたのもそうだった。
喧嘩もたくさんした。
色々あった。
でも後悔はしていない。
娘が生まれてから、仕事を終えて家に帰り、小さな体を抱き上げる時間が一番幸せだった。
一人娘だったから、世間の人より抱っこした回数は少ないのかもしれない。
それでも毎日一緒だった。
15万円で買った車の後部座席に娘を乗せて、妻がいない時に二人でドライブしたこともある。
後部座席には今のようなプライバシーガラスもなく、濃いフィルムを貼る余裕もなかった。
日差しが娘に当たっているのを見て、
「申し訳ないな」
と思ったことを覚えている。
でも、あの頃の私は精一杯だった。
振り返ると、父親になって本当にやめたものは、それまでの家族の形だったのかもしれない。
長男としての自分。
実家中心だった自分。
そこから父親として、新しい家族と向き合う人生が始まった。
もちろん今でも、そんなにはっきり割り切れるものではない。
それでも、何かを選ばなければならない時、私はいつも妻と娘を選んできた。
それくらいの覚悟がないと、家族なんてやれなかったのだと思う。
失ったものもたくさんあった。
でも、得たものの方がずっと大きかった。
娘が生まれてからの時間は、私の人生そのものだった。
だから私は、父親になったことを一度も後悔したことがない。

