週末の土曜日。
いつものように昼頃まで寝て、掃除や洗濯を一通り済ませる。
時計を見るとまだ13時。
「どこかへ出掛けようかな。」
そんなことを考えた。
でも、その日は少し違った。
不思議と、「今日は家でゆっくりしてもいいかな。」と自然に思えた。
ソファに横になり、何となくテレビを見たり、動画を見たり、SNSを眺めたりする。
思い返せば、昼間にこんなふうに何も考えず過ごしたのは久しぶりだった。
以前なら、「何かしないともったいない。」そんな気持ちがどこかにあった。
でも今日は違った。
何もしない時間を、素直に受け入れられている自分がいた。
理由はよく分からない。
それでも、その感覚はどこか懐かしくて、心地よかった。
夕方になり、散歩がてらスーパーへ行こうと思った。
いつものようにAirPodsを手に取り、家を出る。
ところが今日は、なぜかイヤホンを耳につける気にならなかった。
手に握ったまま歩き始める。
外へ出ると、夏の空気が思ったより心地よかった。
近所の神社の前を通る。
立派な木々が並び、その上から一斉にセミの声が降ってきた。
思わず立ち止まり、見上げる。
鳥肌が立った。
東京に住んでいても、こんなに夏の音があったんだ。
そう思った。
毎日の通勤も、買い物も、気付けばいつもAirPodsをつけていた。
音楽や動画を流し、自然の音を自分から遮っていたのかもしれない。
気付くと、AirPodsをカバンにしまっていた。
今日はイヤホンはいらない。
そう思いながら、そのままスーパーまで歩いた。
道を歩く人の話し声。
車が通り過ぎる音。
風で揺れる木々。
そして、セミの声。
何気ない音が、今日はどれも新鮮だった。
帰り道もイヤホンはつけなかった。
何も特別なことは起きていない。
どこかへ出掛けたわけでもない。
それでも今日は、不思議と満たされた一日だった。
何もしなかったからこそ、気付けたことがあった。
東京にも、ちゃんと夏の音があった。
そんな当たり前のことを、少し忘れていたのかもしれない。

