私には車が必要だった。
なんでもよかったわけではない。
勤める会社のメーカーの車が必要だった。
本当は、お金に余裕なんてなかった。
当時乗っていたホンダのステーションワゴンを、そのまま乗り続けたかった。
でも、そうはいかなかった。
どんなに古い車でもいい。
とにかくトヨタの車が必要だった。
それが、ディーラーで働くための最低条件の一つだった。
中古車センターに行った。
今思えば、新入社員に選択権なんてなかったように思う笑
後から先輩に言われた。
「一番売りにくい車を買わされたね」
当時の私には意味が分からなかった。
特に人気もない。
1600ccの中途半端な車。
モデルチェンジ後には1500ccが出ていた。
そんなこと、車業界にいなかった私が知るはずもない。
展示場に着いて10分も経たないうちに、買う車は決まっていた。
今でも、その時の展示場の光景も。
担当してくれた人の顔も。
名前も覚えている笑
恨んではいないけど笑
今では懐かしい思い出だ。
15万円。
当時の私には大金だった。
映画に行くお金もない。
贅沢なんてできない。
契約書を交わす席の正面には、中古車センターの店長がいた。
「15万円だから、キャッシュでいいよね」
当たり前のように言われた。
不思議と悔しいとか辛いとか、そんな気持ちではなかった。
申し訳なかった。
現金で買えないことが申し訳なかった。
だから私は謝った。
「ごめんなさい。15回の分割はできますか」
そう言った。
目の前の店長は焦っていた。
そして、
「いや、うちもローンを組んでもらう方が助かるんだよ」
と言ってくれた。
20年この業界で働いてきた今なら分かる。
15万円を15回で組んだところで、手数料なんて知れている笑
従業員の買い物に、そんな手間をかけたくないのが本音だ。
でも、その方なりの優しさだったのだと思う。
その気持ちは今でも忘れていない。
正直、ローンが通るか心配だった。
無職の私に15万円のローンが通るのかと笑
後から聞いた。
どうやら、入社する会社の社員になるということで信販会社が通してくれたらしい。
今思えば、15万円くらいなら回収できると思ったのかもしれない笑
そうして私は、その車でディーラー人生をスタートすることになる。
そして、学生の頃から乗っていたホンダのステーションワゴンとも別れる日が来た。
配属先の先輩に連れられて解体屋へ行った。
最後の姿も覚えている。
価値は3万円。
鉄代だった。
少し寂しかった。
でも、その後15万円の車は私たち家族とたくさんの思い出を作ってくれた。
仕事が大変だった時。
家族で出かけた時。
チャイルドシートに娘を乗せて走った時。
いろんな場面に、その車があった。
結果的に、いい車だったと思う。
感謝している。
よく付き合ってくれた。
その後20年間で、私は5台の車を乗り継いだ。
妻の車も全部覚えている。
車というものは不思議だ。
ただの道具ではない。
私たちの生活と共にあり、思い出の一部になる。
写真を見返しながら、
「あの頃はこの車に乗ってたな」
と振り返る。
そして同時に、その頃の生活も思い出す。
あれほど記憶に残る一台は、もう現れないかもしれない。
15万円。
15回ローン。
あの車は、苦しかった時代を共に乗り越えた仲間だった。

