最初の始まり

仕事から帰ると、娘の荷物は何もなかった。
部屋にはベッドフレームだけが残っていた。
静かだった。
想像していたよりもずっと静かだった。
何をしたらいいのか分からなかったので、とりあえず掃除をした。
床を掃除しているうちに気付いた。
ドライヤーがない。
掃除機もない。
今まで家にあったものは、当たり前にそこにあると思っていた。
でも実際は違った。
生活を始めるために必要なものが、思っていた以上になかった。
Amazonプライムに救われた
転職したばかりで仕事も忙しかった。
買い物へ行く時間もない。
そこで頼ったのがAmazonだった。
翌日に届く。
それだけで安心できた。
洗剤。
日用品。
消耗品。
気付けば何でもAmazonで注文していた。
スーパーには売っていない大容量の商品もある。
一人暮らしが始まった頃、一番利用したサービスだったと思う。
とにかく整理した
住所変更。
郵便の転送手続き。
保険。
携帯。
引き落とし。
今まで家族単位で管理していたものを、一つずつ自分の生活に合わせて整理していった。
A4用紙も大量に買った。
インクも買った。
調停の資料を作るためだった。
気付けば、少し厚めの雑誌くらいの量になっていた。
人生で初めて算定表というものを見た。
養育費や婚姻費用について調べた。
人生で知る必要がないと思っていた言葉を、毎日のように調べていた。
日記を始めた
頭の中が整理できなかった。
考えても考えても答えが出ない。
だから日記を書いた。
誰かに見せるためじゃない。
自分のため。
書くことで少しだけ落ち着いた。
今思えば、このブログも同じなのかもしれない。
なぜか貯金箱を買った
理由は自分でもよく分からない。
ただ、小銭を持ち歩かなくなった。
お釣りが出たら貯金箱へ入れる。
そんな小さなルールを作った。
何かを失った時、人は小さな習慣を作りたくなるのかもしれない。
明治神宮へ行った
一人で明治神宮へ行った。
特に理由はない。
ただ家にいると考えすぎる。
何かいいことがありますように。
そんな気持ちだったと思う。
その頃から週末に写真を撮りに行くことが習慣になった。
カメラを持って歩いている時間だけは、余計なことを考えなくて済んだからだ。
筋トレも始めた
体を作ろうと思った。
というより、何か始めたかった。
何をすればいいか分からず、ChatGPTに相談した。
結果、ダンベルを買った。
届いた箱を見て思わず声が出た。
「でかすぎるやろ。」
一人だったので誰にも聞こえていなかった。
でも久しぶりに少し笑った。
色々なものを買った
アイロン。
アイロン台。
Netflix。
ChatGPT Plus。
靴磨き用品。
今まで家族と共有していたものを、自分のために揃えた。
少し高めの服も買った。
ずっと好きだった服だ。
今までは家族の好みも考えていた。
今は自分で決める。
自由になった部分もある。
マッチングアプリにも登録した
寂しかった。
だから登録した。
でも何もできなかった。
結局すぐ休止した。
今思えば当然だった。
まだ誰かを探す時期じゃなかった。
まずは自分の生活を立て直す方が先だった。
娘のこと
娘の成人式の前撮りがあった。
本当は写真を撮りたかった。
写真が趣味だからという理由だけではない。
父親として残したかった。
でも叶わなかった。
写真も送られてこなかった。
娘は携帯番号を変えた。
住所も知らない。
元気なのかどうかも分からない。
ある日、買い物の帰りに娘のアルバイト先の前を通った。
奥で働いていた。
話しかけなかった。
元気そうだった。
それだけ確認して帰った。
今でもそれで良かったのかは分からない。
あっという間の1か月だった
一人暮らしが始まって最初の1か月。
本当に濃かった。
掃除をした。
手続きをした。
写真を撮った。
筋トレを始めた。
靴を磨いた。
トイレ掃除もした。
少しでもいいことが起きるように。
何が正解なのかは今でも分からない。
それでも毎日何かをやっていた。
立ち止まると考えすぎてしまうから。
あの頃の自分は、とにかく前へ進もうとしていたんだと思う。
振り返ると、あの1か月があったから今がある。
そんな気がしている。

